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映画『国宝』を観て

映画『国宝』を観てきました。
作品全体を通じて感じたのは、「芸とは、心をむき出しにして人の魂を震わせる力だ」ということ。
美しさと闇が共存し、登場人物たちがその中を必死に生き抜いていく様は、まるで一つの人生を凝縮したようでした。
物語の中心には、「日本一になるためなら、すべてを失ってもいい」とまで言い切る主人公がいて
その強い願いと執念は、何かを犠牲にしてでも手に入れたいと願った過去と重なり、感情が揺さぶられます。
人が映画に感動するのは、そこに自分の人生の影を見つけるから、なのかもしれません。
主人公は、信頼する人々との絆さえも断ち切り、ただ頂点だけを目指します。
芸の世界で生きるということが、どれだけ孤独で過酷か、そしてその中で得られるものの尊さが描かれていました。
萬菊(田中泯さん)のセリフ
「あなた歌舞伎が憎くて仕方ないんでしょう。でもそれでいいの。それでもやるの」
がとても印象的でした。
この言葉は、矛盾を抱えながらもなお芸に向き合う姿を象徴していて、深く心に刺さります。
また、渡辺謙さんのセリフ
「何を言われても、芸は剣より強い」という一言も響きました。
芸とは、単なる演技ではなく、人間の心理を見抜く鋭さ、つまり「心理分析力」そのものだと改めて感じました。
役者たちのまなざし、表情、しぐさのひとつひとつに、そんな「芸の力」が宿っていました。
伝統芸能としての歌舞伎の美しさはもちろんのこと、
そこに生きる人々の情熱と葛藤、
そして「愛を超えた愛」とでも呼ぶべき深い感情が画面に流れていて
見終えたあと、しばらく心が静かに震え、余韻が今も続いています。