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◤子育て中に置き去りにされた「スネ」は、
なぜ50代で夫婦関係を壊すのか
~熟年離婚の本当の原因は、過去の感情にある◢



「もう何年も前のことなのに」
「子育ては終わったはずなのに」
「今さら言っても仕方ない」

そう頭では分かっているのに、
夫と向き合うと、なぜか心が冷える。

触れられたくない。
話したくない。
一緒に老後を過ごす未来が描けない。

嫌いなわけでもない。
大きな事件があったわけでもない。
それなのに、心だけが、もう戻れない場所にある。

50代、60代で
こうした感覚を抱く女性は、決して少なくありません。

そして多くの方が、それを
「自分の心が狭いから」
「私が未熟だから」
と、自分の問題として処理しようとします。

けれど、これは性格の問題でも、
今の夫婦関係だけの問題でもありません。


■熟年離婚の多くは「今の問題」ではない

熟年離婚の背景には、ある共通点があります。

それは、
子育て期、特に一番つらかった時期に、
感情が置き去りにされていること。

子どもの不登校、情緒不安定、育てにくさ。
「普通の子育て」では済まなかった時期を経験した母親は、

•社会とのつながりを失い
•誰にも分かってもらえず
•親にも「気にしすぎ」「みんな同じ」と言われ
•逃げ場のない孤独の中で踏ん張り続けます

そのとき、心の奥で何が起きているのか。


■「スネ」とは、未熟さではない

「チャイルドセラピスト講座」の中で扱う「スネ」とは、
わがままや幼稚さのことではありません。

本質は、たった一つです。

スネとは、
「わかってほしかったのに、
最後までわかってもらえなかった感情の残骸」。

怒りや悲しみをそのまま出すことができず、

代わりに、
•ため息
•無視
•距離
•冷たさ

として表現される感情。
それが「スネ」です。


■ある50代受講生さんの気づき

チャイルドセラピスト講座何回目かで
「スネる心理」を扱っていたとき、
生徒さん(仮名:タマコさん)が、
はっとした表情で言いました。

「私、今、旦那にスネてます」

彼女は、熟年離婚を考えるほど、
夫との関係が冷え切っていました。

けれど話を聞いていくと、
その原因は「今」ではありませんでした。


■子育てで一番つらかった時期

タマコさんの子育ては、
決して楽なものではありませんでした。

子どもは不登校になり、社会とのつながりは途絶え、
毎日が生き地獄のようだったと言います。

「子育ての一番大変な時に、
旦那は飲みに行くし、帰りは遅いし、ワンオペ育児で…」
「誰にも分かってもらえなくて、本当に孤独でした」


■夫は「手伝ってくれていた」
――それでも満たされなかった理由


多くの夫婦に共通する決定的なズレがあります。

タマコさんは、こう話しました。

「夫は、家事の手伝いとかは、結構してくれてたんです。
 でも、そういうことじゃなくて…」

彼女が本当に欲しかったのは、
•大変だね、と言ってもらうこと
•一緒に悩んでもらうこと
•同じ親として、同じ場所に立ってもらうこと

つまり、「寄り添い」、
そして、「共に向き合う」ことでした。

行動はあっても、
感情の横に並んでもらえなかったとき、
心には、静かな絶望感が残ります。


■スネは「一度の出来事」ではなく、蓄積される

スネは、
たった一度で生まれるものではありません。

あの日も。
その次の日も。
何度も、何度も。

「わかってもらえなかった」瞬間が積み重なり、
もう言えなくなり
何がなんだか、わからなくなり
やがて、頑固で動かない感情の塊になります。

本人ですら、
「何がそんなに許せないのかわからない」
状態になることもあります。

けれど、感情は覚えています。
一つひとつの瞬間を、正確に。


■50代になって噴き出す理由

子育てが終わり、少し余裕ができたとき。
抑え込んでいた感情が、ようやく表に出てきます。

•夫と一緒にいたくない
•触れられると嫌悪感がある
•理由は分からないけれど、離れたい

これは「今の問題」ではありません。
20年以上前、助けてもらえなかった「私の声」です。


■涙が出た瞬間
――感情が動き出した証拠


講座の中で、私はタマコさんに問いかけました。

「あの時の自分に、
今のあなたなら、何て声をかけてあげますか?」

その瞬間、彼女は言いました。

「あ…もう、泣けてきます…」

涙は弱さではありません。
長年置き去りにされていたあの頃の自分に、
ようやく光が当たり、
温かく迎えに来てもらえた瞬間です。


■感情の癒しには「順番」がある

ここが、最も重要なポイントです。

多くの人は、感情を感じる前に、

「夫も大変だった」
「相手を理解しなきゃ」
と、頭で自分の感情を処理しようとします。

その結果、
•私が求めすぎた
•私が悪かった

という、
「理解の仮面」をかぶった自分責めが始まります。

これは、癒しではありません。

正しい順番は、いつも同じです。

•あの時の自分の感情を、全肯定する
•怒り・悲しみ・恨みを、言葉にして感じきる
•その過程で、自分の未熟さや非に気づくこともある
•そして最後に、相手の状況や気持ちへの理解が自然に生まれる

理解は努力ではなく、
感情がほどけた“結果”として生まれるものです。


■感情が癒されると、視点が変わる

タマコさんも、自分の感情を十分に味わったあと、
こう気づき始めました。

「旦那も、初めての子育てで、
 どうしていいかわからなかったのかもしれない」

「仕事でつらいことも、言えなかったのかもしれない」

「仕事から帰ったら、私が鬼みたいな顔をしていて、
 居場所がなかったのかも」

ここで大切なのは、無理に許したわけでも、
我慢したわけでもない、ということ。

感情がほどけた結果、自然と視点が広がったのです。


■熟年離婚の正体

多くの熟年離婚の正体は、これです。

「離婚したい」のではなく、
「あの時の私を、わかってほしかった」。

その声が、何十年越しに、
ようやく表に出てきているだけなのです。


■さいごに

子育て期に置き去りにされた母親の感情は、
消えていません。

形を変えて、人生の後半に噴き出してきます。

それは、関係を壊すためではありません。
人生を、次の成熟段階へ進めるために現れます。

感情を正しく扱えば、私たちは被害者ではなく、
自分の人生を選び直す舵を取ることができます。

やり方は、いつも同じ。
いつも同じプロセスです。

あの時の自分に、
今の自分が言葉で寄り添うこと。

わかってあげること。
認めてあげること。
涙が出てきたら、最後まで泣いていいということ。

すると、そのあとで、
あの時の相手(夫)の立場や気持ちが
少しずつ見えてきます。

それは空想かもしれません。
でも、相手の痛みや苦労を「理解」できるようになります。

感情がフラットになり、
心のバランスが取れ、
スネや怒り、恨みが溶けていく。

そして、

「もう少し、一緒に頑張ってみようかな…」

そんな気持ちが、
自然に生まれることもあります。

それは、
「元に戻る」ということではありません。

新しいステージへ、静かに移行するということ。

巣立った子どもを見守りながら、
それぞれの人生を楽しむ。

そんな、新しい夫婦の関係を
築いていくことができるのです。



心理セラピスト 西谷真美

親子家族関係のセラピー BlueWinds
https://blue-winds.com

チャイルドセラピスト講座
https://blue-winds.com/ac/c-ss

note
https://note.com/cm0880

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