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【あるストーリーシリーズ】から

 

父の愛

 

父との記憶はあまりない。
遊んでもらったことも、どこかへ連れていってもらったことも、
抱っこして触れ合ったこともたぶんないのだと思う。

 

たまに家にいるかと思うと、怒ってどなり、
母とよくケンカしていた。
だから父がいない方が家は平和なんだと思っていた。

 

母からいつも聞かされていた父は、
仕事が忙しくたまの休みの日は寝てばかり、家のことを何にもしてくれない、
子育てにも協力してくれない、子供にかかわれない、
自分のことしか考えてない大きな子供で、
お姑さんは父のことをほったらかしだったり、
甘やかして育てたんだそうだ。

 

母からは父の悪口しか聞いたことがなく、
私もずっと同じように思い込んできた。家の中で父は浮いた存在だった。

 

母は結婚してから子育て以上に父との関係で苦労し、
何度も別れようと思ったけれど、
経済的理由と私達がいるから我慢してきたと言う。

 

家の中で父と母の会話はほとんどなく、
あったとしたら言い合いのケンカか、
事務的な連絡・報告ぐらいだった。

 

たまに家にいる父と、
どう接したらいいのかわからなかったのを覚えている。

時折私と妹に見せるやさしい眼差しが、
私を複雑な気持ちにさせた。

 

近づきたいけど父を嫌っている母を裏切ってしまうような気がして、
わざと冷たい態度をとり、避けたりしていた。

 

父の背中が丸く淋しそうに見えた。
心がチクっとしたけど母の言葉を思い出し、
その気持ちを何度も打ち消した。

 

小学生の頃、クラスの男子が苦手だった。
うるさいし、女子をからかうし、なぜか怖いとも思っていた。
なるべく近寄らないようにしていた。

そんなことで、高校は女子高を選び、
男子がいない世界がホントに楽で楽しかった。

 

大学に入ってから親元を離れた。
好きな人ができて、初めてつきあった。
サークルが一緒、2つ年上の先輩で、頼れる男らしい人。
まわりをまとめグイグイ引っ張っていく姿に特に心惹かれた。

 

彼はたくさんの人からも慕われている中心的存在。
友人との時間、サークル、バイトなどでいつも忙しくしていた。

 

1週間に1度の二人の時間が、
だんだん2週間に一度、3週間、4週間に一度となり、
すぐそばにいるのに、サークルで会えるのに、近づけない、
手が届かない淋しさともどかしさを感じていた。

 

メールの返事もだんだん遅くなり、不安でいっぱいになった。
けれど忙しい人だから、気持ちを言ってはいけない、
迷惑かけるから、と、ずっと我慢して待っていた。

 

そんな、つきあっているのかどうなのかわからない関係が続き、
彼は大学を卒業し就職した。

そして、そのまま自然消滅。

 

次につきあった人とは、同じような失敗は繰り返したくないと思い、
正直な気持ちをなるべく言うようにした。
言えば言うほど止まらなくなった。

ここまで言わなくてもいいのに、というほど、怒りがでてきた。

「どうして○○してくれないの?」 
「私だったらこうしないのに!」 
「あなたって、いっつも○○なのね!」

 

彼はやってくれてるのに、私の要求に答えてくれてるのに、
それでも何かできてないところを見つけて文句を言いたくなった。

 

いったい私、どうなっちゃったの?
こんな私じゃなかったはずなのに・・・

 

彼はだんだん無口になり、
笑顔が消えていったことに、私は気づかなかった。

 

会うたび、これでもか!というほど、ぶつけたい、
痛めつけたい気持ちが出てくる自分が恐ろしかった。

 

ある日、好きな人ができたと、彼に打ち明けられた。
私は「イヤだ!絶対別れたくない!悪いところは直すから!」
と懇願したけどもう無理だった。

 

どうしようもない喪失感。
何にも手がつかず、食欲も全くない。
彼との楽しかった思い出だけが呼び覚まされ、
いつかきっとまた戻れると空想しては、
朝目が覚めるたび、現実に打ちのめされる日々が続いた。

 

 

ある日、ふと立ち寄った本屋さんで、たまたま手にした本。
開いたページから飛び込んできた文字。
「幼少期の母親と父親との関係が特に恋愛に現れる」
と書かれてあった。

迷わず購入し家に帰ってから一気に読んだ。

心の中のボタンがスイッチオンになった。

そうだったんだ!
原因と解決策が見つかった深い安堵感。
身体の力が抜け、久しぶりのリラックス。
そしてやる気と食欲も湧いてきた。

 

二人目の彼との間での私は、
まるで父に対する母そっくりだった。

 

そういえば、父はたまに茶碗を洗っていたし、
洗濯物もほしていた。
部活で遅くなった私と妹を、駅まで迎えにも来てくれていた。

 

無口だったけど、ギャンブルもせず、いっぱい働いて、
まっすぐ家に帰り、飲みにはほとんど行ってなかったと思う。
趣味らしい趣味はなく、友人もなく、
家が唯一の居場所だったのかもしれない。

 

今まで母の言うことをすべて鵜呑みにしてきたけれど、
それは母のフィルターを通して見た父の姿であって、全部その通りだとは限らない。
大人になって振り返ってみると、父は精一杯家族のために働き、
母と同じようにはできないけれど、苦手な家事もやっていた。

 

私は父に対する見方が大きく変わったのを感じた。
父は父なりのやり方で、家族を支え、愛してくれていたんだ。
と同時に後悔の思いが溢れてきた。

 

もっと私から近づけばよかった、
あの時ひざに乗ればよかった、
頭なぜてくれようとしたのを逃げなければよかった・・・

 

お父さん、ごめんね・・・
私、ずっと勘違いしてた・・・

 

父と母は離婚せず、今でも一緒に暮らしている。
たまに実家に帰ると相変わらず母からガミガミ言われている。

 

年を取ると丸くなる、とよく言うけれど、
父は本当はもともと丸い人だったのかもしれない。
母があまりにも理不尽なことを言った時に、
堪忍袋の緒が切れたように怒っただけであって、
その怒りは正当な怒りだったんだ。

 

それを子供の私は父を悪者にし、母の言う悪口を鵜呑みにして、
ずっとそれを信じ込んできたんだ。
まさかそれが恋愛に現れるとは、
夫婦関係って、子育てって、なんて大切なんだろう。

 

実家に帰った時、父はちょうど庭の草花に、
大きく水をまいているところだった。

以前の私だったら、
そのまままっすぐ家に入っていったけれど声をかけてみた。

 

「気持ちいいね。お花たちも喜んでいるようだね。」

「お~、帰ったのか、お母さんなら台所にいるよ。」

「(ふふ、私はお父さんと話してるのに・・・)」

 

いつもそうだった。
電話して父が出ても、すぐ母に変わろうとする。

 

もともと、コミュニケーションの苦手な人なのね。
でも、想いはいっぱいあって、
あったかい人なんだね、お父さんて。

 

だからこのガミガミお母さんのことを、
ここまで受け入れ、何度も許してきたんだね。

 

夫婦って、色々あるけどなんだかいいな・・・
私も、お父さんみたいなパートナーがほしいな・・・

 

「あんた、なんだか変わったね、
好きな人でもできたのかい?」と母が言った。

「今はいないけど、そのうちできると思うよ」

「そうかい? そういえば、お父さんたらね、
何回言っても私の言うこと聞いてないんだよ
 ほんとにもうどうしてこうなんだろうね~・・・」

 

あ、また始まった・・・

 

そう言える相手がいるって、
実は幸せなことなんだよ、お母さん・・・

相変わらずな二人の姿を見て、
なんだか微笑ましく思えた。

 

母はいつか、父が先に死んだ時に、
もしかしたら父がいてくれた存在の大きさと愛に気づくのかもしれない。

 

その前に気づいてくれたらいいな。

でも、それは母の、二人のプロセスだしね。

 

この二人の両親に、
私は本当に大切に育ててもらったことを、
今回さらに感じることができた。

 

愛って、形を変えて
どんな場所にでも、存在してるんだね。

 

そう気づいた時に、胸の深いところから、
ただただ感謝の想いが溢れてきて

 

私も幸せな家庭をつくりたい
幸せな家庭を築いていって
それを次世代に伝えたい

と心から思った。

 

 

「やすらぎのストーリー」シリーズ

 




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